残滓

backbeat2009-05-31

先日の整理で、ずーーーっと喉の姉様にDVDを借りっ放しだったのを思い出した。すいませんすいませんと連絡しても「ああ、最近電気クンビアって初めて聴いたんだけど、いいねあれ」と格好いい姉さん。でしょうでしょう、じゃ飲み行きましょうかと、おナンパ。でも渋谷で全然呑まないので、姉さんのセレクトな店についていく、上京した田舎の兄みたいなアテクシ。でも飲みはいつもの調子:

「最近忙しいの?喉ちゃん」
「そうなんだよねえ。もう明日も朝から仕入れで。みんな不況だから流すのかもねえ。ずっと品薄だったジャズなんかもどんどん入ってきてて」
「ああ、そういうのはあるかもなあ」
「でね、なんかちょっとこうエッチなトランスみたいのがいーっぱい入ってきてね」
「あー、ありそうねーそういうの、トランス末期の頃、エ○ベックスが手ぇ出してきたくらいの」
「そうそう、だからそんなの、調べたら案外高い値つけてる人も居たんだけど、うちは別に専門店じゃないから、全部一律に安くつけて出したら、すんごいの、まとめ買いのお客さんが」
「へえええええ。もう、宝の山だと」
「そうそう。もちろん満足して買っていただけてこっちも嬉しいんですよ、シーンがわからないだけで」
「まあそりゃそうだよねえ。ありがたいねえ。いやでもさ、ウチらが知らないだけでね、そういう需要は昔からあるじゃねーの、そういうパーチーになりがちなものにもさ、ディスコにしろユーロビートにしろ」
「ああ、わかる。でもねかずおさん、ちがうの、ユーロはちがうの」
「(笑)なになになになに」

なんかイイとこ踏んだか。

「ユーロね、長いのよ、とにかく。あの人たち」
「...長い?」
「うちの店、ユーロって一列しかないのね、あの、エサ箱っていうのが」
「はいはい。まあそんなもんだったかな」(そこは真面目に見たことがない)
「で、あそこを見るお客さんって、必ず、一枚一枚、すんごいゆーっくり見るの」
「ああ、品定めっぽく」
「うちはそんな大変なのは、そうないんだよ。それなのになんかこう、ゆーっくり、あの、思い出にひたる的な」
「んぶがははははは」
「いちまい、いっちまい、それを見て、終わって、それで、買うかなと思ってると」
「うん」
「また最初から見るの」
(苦笑)
「あれ思い出だと思うのね。あのころは、毎日パーティーで楽しかったなと」
「アタシ毎日ウン万のお小遣いもらってたなと(笑)。思い出のアルバム」
「そうそう。...で、結局LP買わないのよ」
「にゃはははは。今はさんぜんえんのLPも買えねえのか」
「結局レコードは全部戻して、ちょっとほくそ笑んで帰るのよ(苦笑)」
「ぐわははははは」

いや、切ないねえ(笑)。

「でさ、セールとかで買いに来ると、箱からこんなに(指で厚さを示す)抜いて、殺到する客の横に逃げて」
「うんうん」
「またそこで、すごい客の嵐の中で、いちまい、いっちまい」
「わははははは、まだ見るんだ」
「すんごい遅いの。いやそれだけじゃなくてさ、で、レジに来るでしょ」
「うん(笑)」
「そしたら、『検盤いいですか』って」
(涙笑いで声が)
「でね、『ああいいですよ』とは言って放置するんだけどね、そこから」
「なになになになに」

なになになになに。

「『これ、実はもう持ってるんですけど、これ盤質いいから買っちゃおうかな』とか」
「...くっ」
「『これ「新宿ヒット」でしたよねえ、ニューヨークニューヨークとかゼノンとか』って」
「くく...へえ、そうなんすくあ...そういう言葉があるんだな」(もう笑いが堪えられない)
「『へー』っつったら、『あれ、知らないんスかあ!?』って。アタシそのころ十代だっつーの!!ジャズ好きだっつーの!!!!!」
「にゃははははははははは」

いやね、もちろんレコ屋の店員さんにだって趣味はあります。だから総合的に置いているところは担当をつけているものです。あんまりレコ屋に行かないから知らないってのはわかりますし、実際、レコ屋で近くに居た店員に「すいませんクンビアはどこですか」と聞いても全然文句は言わないで、さりげなく「担当」に代わるでしょう。だからそれは悪くないの。
この場合、(はっきり言うが典型的なバブル勘違いがやりそうな)さも知ってそうなクチをきいておいて、見るからにアフター・ハウス・ジェネレーションの彼女に対してこれかよ、と言うのがオチ。


別に時代に乗るのが悪いとは全然思わないし、オイラも喉ちゃんもユーロビートという音楽があって人気があったのは、まあそうだったんだろうなと思う。ちょっと他人行儀なのは単純で、そこに居なかったからだ。で、そういう一時期盛り上がった音楽をその後もずっと好きだというのも否定はしない。古いロックやジャズばかり聴いているウチらだしね。
鼻につくのは、その、「あのころ、おれ、ヤレてたよね」という、過去のたった十年未満の話に未だにすがりついて、平均寿命80年を全部乗り切ろうとするその腐った臭いのするハラワタだ。「知らないんスかあ」で、さもテメエが喉ちゃんの上位にでも立ってるような物言いがまた笑わせる。
家帰ってVHSでトレンディードラマでも観てろ。うちらはその安い飲み屋で安い食い物を取りながらなんということもなく、最近面白かった写真や動画を携帯で見せあったりして解散。まあ普通ですよね。