カネ

良いタイトルの例。

カネが邪魔でしょうがない 明治大正・成金列伝 (新潮選書)

カネが邪魔でしょうがない 明治大正・成金列伝 (新潮選書)

「う、うん、そうだよねー」と目線を外して同意しつつも、ゆっくり手元の日の丸弁当を隠すような(そういや「自虐の詩」映画化ってありがたくなくねえか?)。家に遊びに来たボンボンが勢いで冷蔵庫を開けたとき、子犬のような目で心底不思議そうに「どうしてミノルくんちの冷蔵庫には、プリンがないの?」と問われたような。


はいはいはい、えーと、ここは本の話に戻りましょう。「オレのトラウマを」といった話は、別途聞きますから。ええ。最近はプッチンプリンの2倍っつーのも売ってますし。ええ。

明治、大正期のいわゆる成金、富豪の列伝。曰く「日本が若かった頃」、この場合は妾を囲いまくってそいつに経営させたりとか、今の基準からみれば「何をやっても許された」頃、かつそうしても成長期でどんどん儲けられた頃、くらいの意味だが、その時期の成り上がりと豪遊、そして凋落の様子。慶応や一橋などの大学、カネボウ凸版印刷などの企業の創始も色々出て来る。
その成金の皆さん、えらく儲けて大尽する方法が、無茶(笑)。宴席で紙幣をばらまいたり、無駄に金銀をちりばめるのは当然(?)あるだろうけれども、障子を片っ端から破って紙幣で貼り直したり、手元がよく見えないからと紙幣を燃やす。パチンコ雑誌なんかに載ってる魔法のペンダント広告みたいな、風呂にカネを入れて入るなんて遊びじゃない。ここまでやると、儲けた事の誇示にはみえない。なにかこう、富に対する攻撃性がある。ある相場師が全財産を投入し、ライバルと徹底的に相場で戦って相手を追い込んだ。相手が破産したと聞くと、「ざまあみろ、このやろう」と言いながら、料亭の高そうなとっくりやら皿を片っ端から庭の池に叩き込む。もちろん自分の富を見せつけているのとは違うでしょう。著者も同じ想像をしてるが、この時、彼は絶対笑ってなかったと思う。
紀田さんのこの手の本が好きなのは、絶妙な距離感だ。当時の様子が見えるようにまで書きつつ、ボール1個分離れている冷静さ。読者にも同様の距離を取りつつ、「面白いよ」と知識と筆をこめて説得する。だから紹介される成金も、記録を基に冷静にオレオレ立志伝を解体してあって、しかし読者を実感させるよう、周辺の記録をたっぷり盛り込んである。お勧め。
マイナス4冊まで盛り返し。夏までにはきれいな身体になりたいなあ。ぜったいきれいになってやる(古い)。