概念としての、蟹

ところでこのおじさんと話すときには注意が要る。「『タラバガニ』と『ズワイガニ』の違い」について話し始めたら、とにかく早く逃げないといけない。片っ方はヤドカリで、値段がどうで味がどうでと言うよくある話なのだが、本人はやたらとその2種(および近隣種)の特徴をあちこちで集めてくる割に、区別を覚える気は、ないのだ。

「やどかりの親戚はどっちだっけ。あのスーパーが嘘ついて高く売ったのはズワイ。...あれタラバ?ズワイ?ハナサキガニに近いのはえーとタラバ?ズワイ?でもやっぱりタラバ?トゲが紫なのはどっち?冬によく穫れるのはどっち?おまえの実家ではどっち?」

実家かい。
とにかく、googleを出そうがwikipediaを出そうが、当人は2種の混乱を混乱として楽しんでいるんだから、いっくら説明したって、「前足の長いのが、***」の***を、「タラバ」と「ズワイ」にランダムに置き換えて聞いてくるだけ。これが1時間くらい続く(笑)ので、どんなにあなたの中のカニ感がしっかりしていても、カニゲシュタルト崩壊することは請け合う。昔は「じゃなくてよ、おじさんさ、***がタラバだって」と言えたのに、今ではすっかり自信がなくなった。トホホ。洗脳だ。洗脳だよ。
あんまりそのカニ混ざりっぷりが面白いので、一度同様に別種の多い「タイ」をお題に与えてみた。なかなか食いつきがよかったから、これでやっと俺の「正カニ感」を復興できる(笑)と思った翌日。彼はおれの顔を見るなりこう言った。

「さいとう、タイ、いっぱいあって、つまんねえよ。やっぱカニ。」

もう俺は一生、カニは「ケガニとそれ以外」という区別でやっていきます。