挨拶

後輩のトモのところに今、作業をお願いしている所謂「外注さん」が2人居る。二人とも真面目そうな、俺より年上の立派な大人で、いつもよくプログラムを書いて、デバッグをして、最後に、2人揃ってトモの席まで挨拶しに来て帰る。最初は申し送りか何かと思っていたんだが、どうも毎日挨拶をしている。もちろん、うちにはそんな、「契約上、名目上の上下関係」のような古代の奇習は無い。

「なあトモ、なんであの人達は帰り、オメーに挨拶しにくんの?」
「いや以前、終電間際でもう誰も居ないと思ってオフィスの電気を消してたら、(奥の)実験室でまだやってらした事があったんですよ。で、」
「(ニヤリ)...で、俺に相談もナシでなにを遅くまで残っとんじゃと(笑)」
「いや、ちゃいますよ、そんな」
「だってよ、今普通に机で仕事してんじゃん。見えてんじゃん」
「いやだから、その時に、また電気消さないように、帰るときは一言かけてくださいねー、って言ったんすけど、どうもなんかその、毎日帰りに挨拶してくださるようになって、」
「まあなー、『挨拶もナシで帰んなやコラ』とか言われたらなー。やな雇い主だなーコイツ」
「そんなん言いませんて」
「『オレサマが雇ってんのに挨拶しねえのか』つってな。うわサイテーこいつ」
「ほんともう、いい加減にしてください」

小学5年の夏、ボートで養殖ウニを盗りに出て溺れかけた時、昆布の妖精「ワルノリン」が教えてくれた俺の真の姿「エゾの悪ノリ吹雪」がバレそうになった心配もあったが(略称はE・W・F)、だいたい善良で真面目な技術屋に安い威張りを散らす程度の人間である。せいぜい騒いでもガス橋まですら届かん。つーかガス橋まで載ってるWikipediaって。
帰りに、トモに挨拶しに行く。年上で、口先だけじゃなく手を動かせる人間が頭を下げているのなら、さいとうのようなボンクラはもちろん下げるべきだろう。礼儀は上から押し付けるものではない。尊敬できる人間を見て知るものだ。ついでに卑下すれば真の姿を隠すのにもちょうどいいのだ。短く書くと、ネタが天丼だ。

「トモさん、あの、すいません、ボク、もう帰ります。お先に失礼しますです。はい」
「...ぜってーやると思った。やめてくださいよもう」
「がははは。じゃーねー」(勝利感満喫)




「...あ、さいとうさん、ちょっと待ってください」
「?」
「あのー、明日は、出来たらでいいですけど、もうちょっと早く出社していただけますか?

「...ちくしょー」くらいしか返せない、大逆転の大敗で本日終了。
その「無理をお願いしている側の言い方」を慇懃無礼に活用するやり方が。慇懃・オブ・ジョイトイな活用が。