ふしあわせという名のネギ

そんな肉林の最中、蝶ネクタイのおば様が注文を下げた後に、喉絵さんの告白。ソッファーに身を沈め、30年前くらいの細かい柄の入ったタイル壁へ紫煙を吹き、実に昭和な店内に目を投げながら、彼女の話に耳を傾けます。
本当は葱ばっかり食わされている最中にインスパイア喉絵なんだけど(笑)。情念入れて読め。

あたしの名前がどうしてついたのか
教えてあげようか 古い話だけれど


おばあちゃんが巻いてくれた ネギ
あたしの首に あたたかいのを
風邪がひどくて あたし死にかけたんだって その頃
母親がよく言ってたわ
家族はみんな臭いって大変だったらしいわ でも
あたしは好きだったの あの臭い 病気もなおったしね フフ
それから好きなの あたしはネギなのよ


ひどくいじめられもしたわ 臭いぞって
小さい頃は あんまり覚えてない
男の子より 女の子の方がこういうとき ひどいのね
「臭い薬味の分際で」なんていうの
覚えておきなさい
今も大変だとおもうけれど でも私みたいに
頭にネギ植えられるよりはましじゃないの いやあね フフ
人は生まれた時からひとり ネギならいっぽんなのよ


恋だってあるのよ 意外でしょ
あたしの人生の全部が 薬味で添え物みたいなものだけれど
咲いた花なら摘まれてみたいもの ユリ科だし
一途な人だったわ 君の茎が青くても白くても関係ないって
いじめられるし 捨てられるから あたしいつも隠してたのよ
青いところ でも見ていたのね すごくうれしかった フフ
この人なら 根まで愛してくれるって


今みたいに酒に溺れる 前の話よ
もうずっとずっと前に さようならをしたの
あの日 あたしは掃除をした 窓を全部開けて お風呂にも入って
頭も全部 ちゃんと青いところを押さえて撫でつけて
彼がつぶやいているのに 気づくべきだった いい人だから 本当に
言えなかったのね でも臭いが強すぎて とうとう 出て行ったわ フフ
ずっとこのままでいられると思っていたのに


これで私の話はおしまい おしまいはマティーニへ葱帽子

アアア

タイトルはJさんです。どうもさいとうさんがやるとフォークよりもニューミュージック臭いなあ。こまごまと。