愛のかたち

DCPRGの「全米ビフテキ美術連盟その2」を聴きながら帰りの電車に乗っていたら、目の前に内気そうな、まあああいうところによくいるタイプの男2人が座っていた。片方はえらく色白で線が細く目が大きく、片方はしっかりした眉の下にある細い目からは表情がほとんどわからない。二人とも地味な格好で並んで座り、少し下を向いて、所在無さげに傘の柄を弄んでいる。
互いの目線が合わない程度に互いの方をちらちらと見ながら、少し話してはまた黙ってちらちら。チャカポコチャカポコビヨヨンの上に「英語。」なんて訳の分からないナレーションが流れるiPodのヘッドフォンを通して、少しだけ彼らの会話が聞こえた。

色白「***って、好きかな」
細目「...あ、はい」
両方「...............................」
色白「..........俺もさ、あれ、好きなんだよね」
細目(黙ってうなづく。唇の端だけ、ちょっと笑ってる)
色白(下を向いて傘の柄をいじる)
両方「...............................」
細目(黙ってちらちらと色白を盗み見る)

内気な子だなあ、と思って別に気にかけずにいたのだが、ナレーションが「マダガスカル語。」と言ったあたりで気がついた。これって子供の初デイトみたいだなオイ!少女漫画みたいだなオイオイ!!これじゃあ初恋だよ母さん、オイオイオイ!!!
まずい、笑いが、いや、いかんいかん。オレ今、寝不足ハイなんだよ多分。あーでもダメ、わろてまう。目を逸らそうにも傘が視界に入って、あー、だからそのモジモジがいかんのだ。堪えていたら酔っ払いオヤジが乗って来て、電車が停車してるうちから吊り革につかまってグルングルン回り始めた。それにあっけにとられてるうちになんとか笑いは収まったが、今考えるとあのオヤジは見えない愛の嵐に揉まれていたのかもしれない。
最寄り駅に着いて家まで歩く間にまた思い出し始めてしまった。もうすぐ家だというのに、これでは目の前を歩く女の人に変態の賛成をされてしまう。必死に必死に噛み殺して小走りで彼女を越し、一階の集合ポストを開けたところで閃いてしまった。

カルピスは、初恋の味

「ぐふっ」と堪えきれずに笑いとも嗚咽ともつかないものが口から漏れたところで

「....こんばんは....」

と声をかけられた。さっき追い越した女性は、とても悲しい事に、うちの隣の部屋の住人だったのです。全部見てたのね。