終電

ぐれぴん@オンエアーじゃなくてO-West。帰りの終電でヘトヘトなのでライブ詳細は明日にしよう。その終電の話。
終電は本気の満員で、俺が乗り込む時点でもかなり無理があったのに、発車間際、都内にお呼ばれでもしたのか、割とちゃんとした格好の50代くらいの小柄なおばさんが無理矢理乗り込み、ドアの位置になんとか入り込んだ。まあしょうがないのだが、このおばちゃん、発車した途端にしきりに下を向いてもぞもぞしとる。周囲の人間だって全く身動きが取れないのにお構い無しである。よく見るとどうもバッグから携帯を取り出したいらしい。なんとか引っ張り出した時にはもう頭は下を向いたまま挟まり、上からはお辞儀しっぱなしの後頭部しか見えない。
その頭がちょうど胸に当たっている20代の女の子は怪訝そうに後頭部を見ていたのだけど、しばらくするとなんだか嫌そうに顔をしかめて体をよじろうとしている。まさか痴漢か?と思ったら、その胸と頭の間からニョキっ、と、携帯のアンテナが現れた。こいつ電話してやがる。顔は満員の乗客の中に埋めたまま、「お電話頂いたのに本当に申し訳ありません」と何やら詫びているうちに次の駅が近づく。しかしババア気付かず「電話いただいたのに気付いたのはさっきで」と言い訳真っ最中。見かねて女の子が目の前の後頭部に「あの、駅に着きますから」と声をかけたが、携帯に「もうほんとすいません」とかなんとかで、一切無視。しょうがねえので「おばちゃん、だからあぶねえってば」と大きめの声をかけて後頭部に手を載せたらビクッと動いて顔をあげ、うちらをしらんぷりして他の乗客が降りられる道を開けた。しょうがねえおばちゃんだのう。
もう一度電車に乗り直し、ドア横の席についてる手すり、あるでしょ。そこになんとか掴まったら、そのおばちゃんがすかさずもぐりこんで来た訳よ。俺の懐に。さかしいババアだ。出発後、今度はメールを打ち始める。満員なので出発や停車の慣性がかなりキビシく、ドア横だから乗り降りも大変なのに、ババアは一切関知せずメール書き。俺が倒れて来る乗客の重量を押し返さなきゃ、お前潰されてんで、とババアを見たら、書きかけのメールが目に入った。

「です。普段と違う方向からみたベイブリッチは普段のベイブリッチと違」

おーまーえーはーアーホーかー。これじゃあの会社も「ブリチストン」に改名しないとならんだろうが。
次の停車駅が近づいてまた乗客が雪崩を起こすのに必死で耐えていると、俺によりかかる格好になったサラリーマンが「ああ、すいません」と言う。かなり嫌な顔をしてたんだろう。続けて「いや、本当にすいません。けど、どうしようもなくて」と済まなそうに謝る。事情は明らかだから、黙って何度も頷いてやったら「いや、でも、もうダメかも」と言い出した(苦笑)。「いやいや、大丈夫っすか。もう少しっす」と言って振り返ったら、ババアは「かき」を変換してゆっくりゆっくり候補を選択していた(笑)。「下記」でも「夏期」でもないらしい。同じ電車の乗客とは思えないよ、ほんと。
サラリーマンは停まった駅で別の車両に移動していった。とはいえ終電だから、減ったぶんと同じくらいの乗客がまた乗ってくる。ババアは人が出入りしようがお構い無しに、まるで木陰で雨をしのぐように、俺を盾にしよる(苦笑)。出発の慣性をなんとかふんばって、気合いで体を起こしたところでまた携帯が目に入った。

「ございました。夕方の空が柿の色に染まっていて、とても素敵で」

さっきの「かき」は「柿」だったのだ。うちらリーマンが互いに配慮しつつ慣性と戦っているなか、おまえは季語をメールに詠み込んでたのか。おーまーえーはー(略)。
次の駅で各駅に乗り換えた。3人の若いフランス人が英語とフランス語をチャンポンにして大声でべらべら話す真横に座ったが、こっちの方が気を揉まなくて100倍ラクだなあ、と放心しながら最寄り駅着。