段ボール2つ

昨日。調子が悪いというィヨメを寝かせておいて、俺の部屋(ということになってはいるが、いいかげん納屋と化しており誰も入らない)を片付け始める。まずは先日の地震で崩れたCDの残りを直して、次は売ると決めた本の処分だ。2年前の引っ越し時に、段ボールに2つ分けてある。どれも好きな本だが、2年経っても箱から出なかったってことは、もう出ないってことだ。他の誰かに読んでもらった方がいいじゃろう。経済も回るしネー。
と、一所懸命に未練を断っているのに、「この平田弘史座頭市売るとかありえねえ、この表紙スゲエかっけえのにマジありえねえ」「岡本太郎の『今日の芸術』はアリだろう」「屠畜ちょうおもしれえラクダとか」と、調子が悪いはずのィヨメがうるせえ。アリでも新刊出てるし100円古本だよ、客が寝るスペースが無いから本減らせっつったのはおめえだろ、と言ったら寝グセ頭でブツクサ言いながら全部自分の分として持っていった。まあオレ本棚から減るならいいけど、未練切ってるとこをいじんなや。
とまあそういう風に、こういう事は辛いのだ。部屋の事情も書いたが、実はもうオレの趣味なんざどうでもいいやな、という気にもなっていた。ここ数年仕事ばかりしていたせいもあるし、地震原発の騒ぎでいろいろ思ったせいもある。どうでもいい。とにかく本を売るのだ。
ィヨメのカートにとりあえず30冊強の段ボール1箱を括りつけて家を出た。こういう時は長く考えていてはダメだ。夕方の住宅街をガランゴロンうるせえカートを引いて、家から一番近い、某大手古本Offに向かう。すいませんが買い取りを、と言うと学生風の店員が実に事務的な応対をして銭湯のロッカーみてえな札をくれて15分待てという。このオフ店はさっぱり買う気がしないものしかないので居場所に困る。とりあえず最近アツいプリンス殿下の棚を見てみたがベスト盤しかねえ。プリンスすら他人様が選んでくださったベストしか聴けねえのか、とサベツしていたら呼び出しが来た。
530えん。
うわー。事務的に「こちらの本は汚れがありますので」と言われた山には3冊。まあ、こんな本ばかりでもがんばって買ってくれたのかな、と思って承諾。がっかりして家に帰る。もちろん古本屋に売ったことは何回もあるし、箱には新刊も人気本もありませんでしたよ。喫煙者だし、通勤時も持ってあるくから状態もアレかもしらん。希少本なぞとんでもない。でも一冊あたり50円は超えると思っていたがなあ。帰りがけのコムビニでお使いの牛乳1リットルと煙草を買ったら足が出た。おれはどういう貧乏人だ。

翌日。まだもう一個、似たような内容の段ボールがあるのだ。売るのはいい。安いのもまあわかる。でも単行本や文庫本30冊を入れた段ボール1個ガラガラ引いていって500円はひどい。だので、もうちょっとしっかりした古本屋に行くことにする。今度は電車に乗って、イセザキモールのちょくちょくよる某店まで。日の出町駅から歩くがガラガラカートが邪魔だので、福富町の風俗街を抜けていく。昼間っから立っているおねえさんも、さすがにボロいダンボールを引いた40オヤジには目もくれない。歩きやすいので車道を通っていたらタクシーに睨まれた。すいません。
店について、店頭で100円本ワゴンの入れ替えをしていた店主に声をかける。

「すいません」
(聞いていたイヤホンを外しながら)「ああ、なんですか」
「本の買い取り、お願いしたいんですけど、いいですかね」
「あー、ものによりますけどねえ」

どういうものにせよ、買ったばかりのカスをチャチャと斜め読みしてエコヅラでドヤっと売るのがフツーな昨今、売りの初見は露骨にイヤ顔されるものです。その場で一度箱を開け、某マンガやヤスいビジネス書じゃないことを見せる。「じゃあ中で査定しますよ」と入れてくれた。ラッキー。番台に置いて、刺してあるうちだひゃっけんせんせいの本などを見ていたら5分で終了。
2500えん。
値段が昨日の5倍というよりも、こんな下手の横好きなオイラでもなんとなくは持っている相場感覚があまりズレていないことに安心した。だいたい、こりゃ安いなーって本ばかり積めなきゃ、箱一個あれば立ち呑み一回分くらいになるものでしょう。今回はやや高い。500は載せてくれてる。聞けば音楽関係の本が欲しかったのと、アレやコレは前から欲しかったとのこと。欲しかった、というのがとても気持ちよかった。そうなんだよなあ。
こういうの、まだ持ってますか?と聞かれて素直に昨日オフに流した1箱の話をしたら、「あちらは状態が良いビジネス書やマンガが中心ですから、あーあもったいない」と言われた。とほほ。まあ、すぐ「いや、うちまで持ってきてくれるだけでありがたいんですけどね。うちはもっとちゃんと見て買いますから、今後もぜひ」と。おっしゃる通りです。ありがとうございます。
マンガは買い取りしてますかと聞いたところ、旧いもの限定でやってますと言う。じゃあまあ座頭市は大丈夫かな。今後はガラガラが面倒でも立ちんぼに無視されても、こっちにお願いしよう。やっぱり中区南区はいいなー(笑)。なぜか図書館で文庫が見つからないのでカフカの「審判」を差分で買ったら、「お客さん、売ったその場で買う人って、数%のお客ですよ」とニヤリとされた。いやそっちじゃないから俺、100冊の-12冊でね、と釈明する訳もなく、ああどうもまたぜひ寄りますと曖昧に笑って退散。