太陽の男

もっかい貼る。

太陽の男たち・ハイファに戻って (現代アラブ小説全集)

太陽の男たち・ハイファに戻って (現代アラブ小説全集)

なんたる筆致。「太陽の男」は粗筋を知っていてもビリッビリ来る。「彼岸へ」「ハイファに戻って」に出てくる祖国や人間の像は、一日で過去と未来の全てを失ったり、敵の子を拾い育てたり、育った子と相対しても、決して卑屈にならず、過去も許しも釈明もなしに、自分を説明しようとする人間やその居た/居る国の事だ。お涙ちょうだいも死んでもらいますも、この紋所もナシだ。...いや止めた。ものすごく色々書きたいがすごく我慢(笑)している。とにかく素晴らしいな、これ。
もう少し軽い(笑)見方。今から30年前にこんだけの困窮も交流も交渉も戦争も、政治も考察も攻撃も議論も既にあって、それを冷静に咀嚼して、こんな完成度の小説にもできているのだよ。パレスチナ問題がこれで全部わかる訳ではもちろんない。なにしろ作り話だ。でも、まずこれは是非。


やっと週末。横浜駅の喫茶店に入り、予定の一週間遅れで本を開き読み出した。「太陽の男」を読み終わって体が固まって居るところに、ちょっと趣味の良い、典型的な都会の女子高生が、たぶん買ったばかりの秋冬向けジャケットを着込んで「アルバイトの面接を受けさせていただきませんか」と入ってきた。声は出ているが、緊張で言えてないのがご愛嬌。
続く「悲しいオレンジの実る土地」からの短篇に翻弄されまくりながら顔を挙げると、面接待ちで一応行儀よくしつつ、携帯でメールを打ったり道往く人を眺めたりしている。普段なら「めんこいもんですね」と気楽に眺めるものであるが、今おじさんはハミードはどうして先生に嘘をつくのか気がかりなもんで、また本へダイブ。
そのままがんがんと「彼岸へ」まで読んでリュックへしまい、レジへ向かった時も、その子はまだ真面目に待っていた。年末に遊べるくらい稼げるといいね、とは思ったが、オイラは感動の洟を我慢するのに大変でそれどころじゃなかったよ。たはは。
これアラブ現代小説全集の一巻なんですね。他も読んでみようかな。